「Change the world 〜 Letters Side-B 〜」あとがき

と題してみたものの、実はあとがきで書くことが殆ど見つからないのが実際のところで。

タイトルの通り、本作は真名さんのところから二人の登場人物をお借りして書いた「Letters」のウラ話なのですが。
「Letters」が「志村正晴の視点から見た向坂永一の物語」であったのに対して、「Change the world」は「Letters」では狂言回しの位置にあった榊原真奈を視点人物に据えて「真奈の視点による真奈自身の物語」となっております。もちろん、前半部分(第17章まで)は文字通りの「side−B」なので、向坂永一の物語でもあるのですが。

実際のところ、「Letters」での真奈は本編である「砕ける月」や「Left Alone」に比べるとずいぶんと違って見えるというか(まあ、それは読者さまには概ね好評だったようですが)行動原理にいまいち曖昧なところがあって、どうも物語の都合に合わせた感が否めなかったわけです。

もちろん、書いているわたし自身は――ぼんやりとですが――真奈が何を思って行動していて、どういう意図で話をしているのかをバックグラウンドストーリーとして組み立てていたのですが、それを志村視点で描くのは無理だったのです。
しかし、「Letters」あとがきでも書いた通り、最初から真奈視点というのは物語の構造上あり得ないわけで、あの時点では「大量の処理できないウラ話」を抱えたままの「side−A」を書かざるを得ませんでした。
そういう意味では本作は「Letters」を補完するものと言えるかもしれません。その割にはずいぶんと話が広がってしまいましたが。(笑)

ちなみに本作執筆においては「えいみす2型」が重篤な発症を見せたおかげで「side−A」の軽く2倍、原稿用紙に換算して375枚(!)というもうちょっとで長編というところまでいってしまいました。
これは単純にプロットそのものが長い(「Letters」の分にプラスして後半の夜の天神編が付加されてますので)というのもありますが、秋月編を除けば登場人物がほとんど徒歩移動をしていることもあって、街の描写に相当な文章を割いたせいでもあります。とりわけ、後半の天神編は実際の移動距離と比較してもかなりの量を費やしてます。(これについてはそのうち、アメブロのほうで画像や地図を使った補完記事を書く予定です)

それともう一つ、この物語が長くなったのはこれまで本編で語ってこなかったエピソードや、「砕ける月」と「Left Alone」の間の変化について、2つの物語を繋ぐような展開を織り交ぜたことも理由です。特に父親の事件後の真奈の境遇などは、彼女の人格や非行少女化への重要なポイントであるにもかかわらず「砕ける月」の冒頭と「ブラジリアン・ハイ・キック」での亮太の伝聞でしか触れていませんでしたから。同様に父親の事件後にその現場を訪れることの意味など、本来であればもっと早くどこかに挿入しておくべきエピソードもずっとほったらかしにしていたわけですが、今回ようやく描くことが出来ています。

本作では他にも多くのエピソードが挟み込まれていて、とりわけ本作のラストの真名と永一のやり取りは「Left Alone」の解釈を大きく変えてしまうかもしれないなと思っています。
というのも、真奈が自分の気持ちを「村上への恋心」と認めるのは本編で由真がライバルに名乗りを上げてからの話なので、従来の解釈であればこの段階では真奈は本当に「何とも思ってない」ことになります。ところが、本作の解釈を加えると「あるいはそうかもしれない」程度には村上をそういう対象だと見ていたことになるのですよね。
この辺は後付け設定の多い作風そのものの問題かもしれません。

とにかく、おそらくシリーズ中最大の問題作(笑)である本作ですが、わたし自身はこれまで書いたことのない恋愛小説という位置づけでなかなか楽しんで書けました。もちろん、それと同じだけの産みの苦しみはあったわけですが。
読んでくださった方にも、同じように楽しんで戴けたのでしたら幸いです。


そうそう、最後になりましたがこれは書いておかなくてはならないでしょう。

「志村、扱いが悪くてゴメン!!」

 

<作者えいみすさんによるあとがきです>