*あとがき(えいみすさんブログより抜粋)*

……というわけで、「Letters」をおおくりしました!

さて以下は作者えいみすさんによるあとがきです。ブログ版からの抜粋となっておりますので、ノーカット版をお読みになる方はこちらへどうぞ →  「Go ahead,Make my day!」

 

 

 

 

えー、そんなわけで史上最大の力技(笑)も無事にゴールにたどり着くことができました。
まずは、このむちゃくちゃな企画に大切なご自分のキャラクターを快くお貸しくださった真名さんに、心からお礼を申し上げたいと思います。

 
もとはと言えば、「Letters」はわたしの中でくすぶり続けていた2つの未完成の物語に端を発しています。

1つ目は真名さんの「天蓋の花」を読ませていただいたときの、ほんの小さな疑問――この物語のどうにもやるせない結末を、自分だったらどう描くだろうか?――から生まれた、ほんの短いストーリー。
しかし、それはどうにも答えの出ない歯切れの悪いものでした。
考えてみれば当然のことで、永一の視点から語る以上、真名さんの物語と同様の結論しか導き出せるはずがなかったのです。
もし、違う結論を導き出そうとするのであれば、真名さんの物語世界から一歩外、”ここではない何処か”に踏み出さなくてはならないし、それは原作者ならざるわたしがやっていいことではないように思えたのですね。

もう1つは自分の創作に関わることでした。
わたしは福岡という地方都市を舞台にしたミステリ(最近、そうとも言い切れませんが……)を創作しています。
しかし、若年である主人公たちの行動半径の制約や、福岡県内の他の都市、あるいは隣県まで舞台を広げるのが難しい内容であることなどから、どうしても福岡市とその近郊しか描いてきませんでした。
いつかその制約を離れて、真奈をガイド役に小さな旅をするお話を描いてみたいとずっと思ってました。
ところが、それには「登場人物をどうするか?」という問題がありました。
一連のシリーズの誰か(たとえば由真)を引っ張り出せば話は簡単なんですが、そうすると物語はシリーズの中の一角を占める作品になってしまいます。あるいは、その物語にシリーズの人間関係を持ち込んでしまって、純粋に他の街を描くと言うことにはならない。
しかし、だからと言ってその物語の為だけに新しいキャラクターを生み出すのも難儀な話です。
そういうわけで、この物語も未完成のままでずっとわたしの中で眠っていたのです。

しばらく前に、わたしは(どちらかというと)批判的なスタンスで二次創作について書きました。
そのときには自分が二次創作をやるつもりはなかったんですが、

「批判するからには、何が良くて何が良くないのか、自分でやってみないといけないだろうな」

そう考えて、一般作ではなくお付き合いのある創作ブロガーさんの作品でやってみようかと思ったとき――
 
「天蓋の花」の外側にある”そこではない何処か”が、九州の片田舎であったなら。そして、真奈といっしょに小さな旅をする誰かが、向坂永一と志村正晴の2人であったなら。

そう思いついたとき、2つの未完成の物語は大きく動き出したわけです。まるで最初から1つのお話だったかのように。

プロットもバックグラウンドもあっという間に出来上がって、それこそ、わたし史上最速のペースでの執筆になった「Letters」なのですが、実は書き出すまで「誰を視点人物にするのか?」という根幹の部分でずいぶん迷いました。
ベースになるのが「天蓋の花」である以上、真奈視点というのはあり得ません。それはすぐに決まりました。
問題は永一視点にするか、それとも志村視点にするか。
この物語が永一の家族に関わるお話である以上、順当にいけば永一視点になるはずです。特にラストシーンなどは、永一の内面を描かないとあるべきカタルシスへ繋がらないのは明らかでしたから。
しかし、彼の視点から描こうとすると1つだけ大きな問題があったのです。

その前に1つ、永一という人物に関してわたしが抱いている印象を。
真名さんは彼のことを「諦めきったジジくさい人物」だとか「自分が不幸な環境で育ったことに気づけない」とか、かなりなことを言っておられます。(ああ、ダメな子呼ばわりもされてましたね。笑)
そういう部分も少なからずあるかな、とはわたしも思うのですが、彼の一人称で語られる「OVER」と「天蓋の花」を読んでいて、あるいは今回、志村の視点からずっと見ていて、真名さんとは幾分違う解釈をしていることに気づきました。

わたしは彼が、諦めた態度をとってみたり、必要以上に感情を押し殺してみたり、あるいは理屈っぽく分かったような態度をとってみせたりすることで、自分が置かれている不幸な環境に「気づかないふり」をしているのではないか、と思うのです。
他人の陰口で傷つかない一番手っ取り早い方法は、陰口を聞かないことです。それと同じように、彼は周りの大人たちの所業を視界から追い出すことで、自分を守ろうとしているのではないか、と。

  
祖母と永一の手紙を介した和解が主題である以上、永一の視点から物語を動かすのがもっとも効果的なのは間違いないと、わたしは書き終えた今でも思っています。
それでも、彼の目から見た「Letters」はとても狭い、閉じた物語になっただろうなとも思います。
どちらが正解だったのか――その判断は、読者の皆さまにお任せするべきなのでしょうね。

とにかく、永一と志村、そして真奈の小さな旅の物語は終わりました。
永一がこの後、どういう人生を送るのかは分かりません。この旅が彼に何を残したのかも、同じように分かりません。
祖母が何を思って永一に接し、何を思いながら世を去ったのか。それも永遠に闇の中です。
わたしはこの物語を通じて1つの結論に似たものを出しましたが、安斎啓子なる女性の内面を知りえないわたしが出したそれは、おそらく真名さんの結論とは違うでしょう。
しかし――ちょっと飛躍しているかもしれませんが――原作で語られることのなかった物語の可能性を敷衍(ふえん)することこそが、二次創作の持つ意味なのではないかと思うのですが、いかがでしょう。